えらぶゆり生産のあゆみ
【第7回】沖永良部台風後のゆり事情
南西諸島は台風常襲地帯で、台風時期を避けた作物が定着している。
さとうきびは毎年のように被害を受けるものの、収穫ゼロにはならないことから、地域の基幹作物として位置付けられている。
沖永良部では、ゆりは9月に植え付け、6月に収穫できる。 生育期の冬場は、季節風による塩害を受けるが、潮風には強い作物であることから長年本島の特産品目として定着している。
昭和40年から昭和50年にかけ、飛躍的に増大したえらぶゆりは、品質改善を図りながら市場ニーズに対応できる産地体制の強化が図られていた。
そのような国内外の需要の高まりに、安定供給体制が取られ、大型トラクターの導入等機械化体制も整っていた矢先の昭和52年9月9日、台風9号(沖永良部台風※気象庁サイトへ)の直撃を受けた。
農家では、ゆりのほ場の耕運や種球の選別を終え、台風通過後、植え付けを行おうと準備し、種球も倉庫の入り口に積み上げてあった。
台風9号は、907mbと地上観測で最低の気圧を記録する最強の台風で、全島に甚大な被害をもたらした。
台風は、翌日には九州北部に達し、天気回復したが、人家、倉庫等全ての建造物が被害を受けた。
倉庫が倒れ、ゆり種球は散乱し、ほ場の片付けなどに追われた。
島全体で復旧工事が始まり、労力が不足する中で、農家は、ゆりの植え付け作業を優先させていた。
植え付けの終わったほ場では、品種の混りやウィルス罹病株の多発生、アブラムシの多発生等が見られ、翌年の植物防疫所の栽培地検査において不合格圃場が増大した。
その大きな要因は、ゆりの栽培管理に手が回らなかったことが挙げられる。
その年収穫され出荷されたゆりは、切り花産地において、ウィルス病を多発させる等、切り花農家に多大な損失を生じさせると共にえらぶゆりの信用を失墜させることになった。
特に、輸出先のオランダからは、「日本産テッポウユリのウィルス汚染球の割合が急速に増加し生産者の不満が高まっている。」との調査報告があり、早急な品質改善対策が求められた。
えらぶゆり組合では、関係機関と連携し、防除体制や親子リンペンの徹底等による、品質改善の取り組みを推進した。植物防疫所では、栽培地検査を、予備検査、本検査と2回検査体制にして、ウィルス病撲滅に取り組んだ。
そのような、支援体制のもと品質改善の回復が図られていくが、一度失った信用を回復することは容易でなく、オランダでは、自国のゆり育成を本格化させたといわれている。
更に、当時、新技術として研究されていた、バイオ技術による新品種育成及び大量生産技術が事業化され、次々と新品種が育成され、えらぶゆりの需要がオランダ産にとって代わるようになってきた。
その背景には品質が大きく関わっており、本島でもバイオ技術を活かした品質改善が早急な課題であった。
次回は、バイオ技術によるゆりづくりについて記述する。
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